2017年05月26日 17:00

天然で危なっかしい妹の日記…(体験談)

読了時間:約 5

流れ的に家族の話ってことで、少し長いが俺の語りも聞いて欲しい。
ウザかったらスルーしてくれ。

うちの家族は父母俺妹の4人。妹は俺の1コ下。
年子の弟妹なんて単に煩わしいか、逆に友達みたいな感覚とよく聞くが、うちの妹の場合は少々違った。面倒見てないと危なっかしくて仕方がない。
なんか知らんがこいつはばかなのだ。


いや、リアルに頭が足りないとかではない。日常生活は問題ないし、偏差値的には学区で2位の公立校でちゃんと上位層を維持してる。
俺は同じ高校でギリ中の下だが…。妹がばかなのは、他人の悪意に極端にうといからなのだ。

例えば俺と妹のどちらかが夕食を作らなければならないとする。
俺は当然めんどくさいので妹にやらせることにする。
「おい、夕食当番じゃんけんしようぜ。ただしめんどくさいから、グーチョキパーでお互い違うの出したら俺の勝ち、同じのだったらお前の勝ち。
一発で決まるし公平だ。いいな?」
「んー、うん。いいよ」
疑問もはさまずに笑顔でこんな返事をする奴なのだ。ばか。

しかもその時運悪くあいこが出た。妹の勝ちだ。そこで俺はこう言う。
「お、お前の勝ち。じゃあ残念だが夕食当番はお前に譲ってやる。がんばれよ」
「え、えぇ?あ、うん、そういう意味だったんだ…うん。わかった。ありがと兄ちゃん」
そのまま笑顔で普通に台所に向かった。ばかだ。

こんな妹だから、兄としては必要以上に心配してしまう。変な意味ではない。
本当に知らないおじさんにお菓子で釣られて攫われそうな危なっかしい女子高生が家にいたら、誰だってそうなる。めんどくせえ。

ついでに言うと、まぁ家族だから俺は別に見慣れててどうとも思わないが、容姿は少なくとも見てて不快になるようなモンではないと思う。
いつもへらへら笑ってるのが癇に障ることもあるが、まあそれはいい。

ややヤセ気味で発育不良で貧血持ちで運動音痴だが、高校入ってからの1年半で4回男子に告白されたというから見た目もそう悪くは無いんだろう。
妹と同じクラスにいる部活の後輩からそう聞いた。

めんどくさいといえば、一番面倒なことになった時のこと。
俺が土曜の午後に、家に誰もいないと思ってひとり自分の部屋でナニをしていたら、いいところで妹がいきなりドアを開けて入ってきたことがある。

「兄ちゃん、この前借りたCDさぁ、コレって…」
いたのかよ。どうやらヘッドホンか何かでひたすらCDを聞いていたらしい。
気付かなかった。俺はとっさに布団をかぶって色々隠したが、当然パニクってた。

「ばか!うるせぇ!勝手に入ってくんな!出ろ早く出てけ!」
「え…あ、えと…」
「出てけっての!」
「あぅ…ごめん、なさい」

こんな感じでとりあえず追い出したはいいが、それでもドア越しに謝ってくる。
こっちはそれどころじゃねえんだよ。

「ごめん、兄ちゃんごめん。もう勝手に入んないから許して。本当にごめんなさい」
「いいから早くどっか行けっての」
「うぅぅ」
とかなんとかやってるうちに興ざめ。ほら、抜いてる最中に家族の顔とか浮かんだら
げんなりしてもうやる気失せるっしょ?その状態。正直ムカついた。

んで、諦めてしばらくゲームやって居間に行ったら、なんか書置きとかあんの。
「ごめんなさい。私はこの家にいても邪魔になりそうです。しばらく出ていきます。心配しないで下さい」
あきらかに妹の字。なに考えてんだ。今時プチ家出かよ。

ちなみに、ウチはかなりの田舎。わりと北国。街灯とかほとんどないから夜は真っ暗。
友達ん家とか、歩いていける距離に無いのが普通。車が生活の足、みたいな土地。
しかもこれ初冬の出来事。こっちは初冬って言ってももう雪降るし。

つまり、あのばかがうろついてたらマジでどうなるかわかんない状況だったってわけ。
しょうがないから俺が探しに行くハメになった。いや、共働きで両親いないし。
外はもう暗くなりはじめてるし。雪もちらついてるし。ああもうめんどくせえ。

結論から言うと、妹は4時間探し回ってようやく見つかった。
隣町の公園のベンチでコンビニのあんまん食ってやがった。ばかだこいつは。

「でも、でも、寒くてお腹すいて寂しかったから…甘いもの食べると元気でるし」
「ばか。家で食え」
「でも、兄ちゃん怒ってるし」
「こういう勝手なマネのがムカつく。心配かけんなばか」
「うー。ごめんなさい…」
「よし」

手間のかかる妹なんぞ、成長しない子犬を飼ってるようなもんだな、
と物心ついてからずっと思ってた。
俺がついててやんないとしょうがねーじゃねーか、って。

その妹が一昨日、死んだ。

余震で割れたガラスから、とっさに顔を腕でかばったものの、肘の裏側辺りの動脈を切ってしまったそうだ。
俺は必死で止血した。必死で避難所探して、必死で医者探して、必死で妹を助けようとした。でも無理だった。

医者が言うには、元々貧血気味だったのに加えて、輸血パックが手に入らなかったのが致命的だったという。近隣はみな同じだそうだ。

妹はB型。俺はA型で母がAB、父がO。よく笑い話にしたが、こんな血液型だったことを恨んだ。そして輸血提供者を探してる時間も、そのための設備もろくになかったらしい。医者も辛そうだった。

ほんの二日前、妹が死んだ。
最後に妹は、俺を呼んで、最初の地震の時に真っ先に持ち出した、自分の日記帳を手渡して言った。

「兄さん」
弱弱しい声だったけど、今までとは違う大人っぽい、というか女らしい口調だったのをはっきりと憶えている。

「私が…いなくなったら、読んでください。遺言書…というか遺書?かな。その代わりに」
「ばか。ふざけたこと、言うな。遺書なんか、んなもんいらねぇよ」

いつものようなコトが、多分、いつものようには言えてなかったと思う。
妹は、そんな俺を見て少し笑ってた。それは間違いなく、妹はその時笑っていた。

「私、兄さんの妹でよかったよ。ありがと」
それだけ言って妹は眠った。息が止まったのはその50分後だった。

妹の日記は、まだ全部読んでない。
ただ2日前の日付で書かれてる、くしゃくしゃの字のページだけ、何度も読んだ。

「力がぬけていく。うでとか足とか動かす力、息をする力、考える力、笑う力、生きる力。死ぬってこういうことなのかな。こうやって考えたり書いたりしてるうちはまだなんとかなりそうな気がするけど。ぜんぶの力がぬけたら死ぬのかな。

じゃあほかの力はともかく、笑う力だけは最期までのこしておこう。ほかの力を集めて笑う力を最期につかおう。兄さんには、笑顔の私をおぼえていてほしい」

「この日記は遺書にします。兄さん読んでますか?兄さん。ありがとう。今までありがとうございました。あんまり悲しまないで下さい。でも忘れられたら私が悲しいのでちょっとは悲しんでください。愛してます。兄さん」

読みづらい字で、妹の日記帳の一番新しいページに、これだけ書いてあった。
よくわからない。今のところ、よくわからない。

「愛してます」とあるが、家族として兄としてか。別の意味もあるのか。
確かに、妹の態度にそんなようなそぶりを感じたことも無くは無いし、俺自身そんな気持ちがないとも言い切れない。
でもそんなことがハッキリする前に妹は死んだ。だからもうこの事はいいんだと思う。

長文すまなかった。
ただ、俺の妹が、まだ生きてて良かったはずなのに17で死んだこんな妹が、それでも確かに生きてた事を誰かに知って欲しかったんだ。
んじゃ。読んでくれてありがとう。

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